♯01

聖域を変えようと誓ったあの日。
頬に優しく唇を落として
けれどその瞳はひどく悲しそうに
「ごめんね、カノン」
とだけ言って抱きしめられた。肩口に頭を押し付けて、ただただ声を抑えて泣く兄の姿を
抱きしめ返すことしか出来ない己の無力さを思い知らされた。

その時はまだ、
兄が何を悲しんで、苦しんでいたのか知らないでいた…。





♯02


自身の守護宮から出て教皇宮に向かう途中、昨日教皇のお付であったデスマスクと会った。
「あの方のご様子は・・・?」
「昨晩もひどく臥せってたよ。さっきようやく眠ったところだから暫くは起きないと思うぜ」

教皇は時折こんな風に臥せるときがあるから、自分とデスマスクそしてアフロディーテの三人で身の回りの世話などを日替わりで行っている。
「そういや・・・昨夜鏡見て暴れだしたもんだから教皇宮中の鏡片っ端から処分したけどまだどっかにあったらお前処分しといてくれよ」
なんせ数が多くて取り残しあるかも、と眠そうな顔でデスマスクは付け加えた。


教皇宮は薄暗くひんやりとした空気が漂っていた。
奥の私室の扉をそっと開けるとベットの上で眠る教皇…サガの姿が目に入った。
サガがどういう経緯で教皇と摩り替わったのかは分からないが酷く虚ろで脆いサガを責める気にはなれなかった。逆に失う事のほうが恐ろしかった。

「・・・・・ノ・・・ン・・・?」
不意に聞こえた微かな声にサガの方を見ると、虚ろな蒼い瞳とぶつかった。
焦点の合わない瞳が自分の姿を捉えて、だがすぐに覚醒した彼が落胆した様子は分かってしまった。
「大丈夫ですか?サガ」
「シュラ、なんだか懐かしい夢を見たよ・・・」
いつもの優しい彼の微笑みから零れる涙。
「戻ってくるはずがないのに、期待してしまう私は愚かなのだろうか」
いつも必ず言うこの台詞。その後に続く名前を聞きたくなくて。

その唇を己のそれで塞いだ。



♯03





鏡に映る自分の姿は

彼そのものなのに

彼の為に

罪を犯したというのに

その彼を私は殺してしまった・・・

それなのに何故私は生きているのか

何のために・・・?

誰のために・・・?

何故ここに私が存在しているのか

その理由さえ今は解らなくなってしまった。





♯04


触れた指先が熱い
組み敷かれた身体がその先の快楽を待ちわびているかのように小さく震えた
首筋を幾度か行き来していた唇が時折音を立てて吸い付く
そして優しい口付け
「ふっ・・・」
漏れる声は艶かしい
身体を這い回っていた指が秘部へと伸びると反射的にビクリと身体が揺れる
指を1本、2本と増やす度に乱れるその姿が愛しくて


「ぁぁ・・・カノ・・・ン。も、はやく・・欲しいッ」
漏れた言葉の意外さに目を見開き
けれども嬉しそうに口の端を持ち上げると
「あぁ、サガ。好きなだけくれてやるよ」


二人の夜はまだはじまったばかり・・・。