Small two of Pieces











「イオンを返せー!!」

タルタロスに乗り込む際にイオンの後を追ってきたルークが刃を向けてきて、振り向きざまにアッシュはそれを受け止めた。
己の居場所を奪い取った忌々しいレプリカ。
この場で殺してやりたい衝動に駆られ憎悪の眼差しを向けると、澄んだ翡翠の瞳と目が合った。
目が合った瞬間それまでのルークからは想像も出来ない切なげな表情をつくると緩く口元に弧を描いてアッシュに右手を伸ばした。
「やっと、会えた」
「!?」
怯んで動けなくなったアッシュの頬を愛しげに撫でながらルークは静かに言葉を紡いだ。
「もうすぐ・・・もうすぐあなたに全て返せるから・・・」
儚げに微笑んだルークからアッシュは目が離せなかった。
後方からガイたちが駆けてくるのを感じたのかその表情は一瞬にして消え慌てたように頬に触れたままの手を離した。
「早く行って・・・!」
「ま、待て!お前は一体・・・?」
その問いに答えはなく、先程と同じ笑みを浮かべるとアッシュと距離を置くように後ろに飛びのいた。
まだ何か言いたげなアッシュの背にシンクの声がかかる。
「アッシュ!今はイオンが優先だ!」
その呼びかけに渋々剣を鞘に戻しガイ達の視線を感じながらルークに背を向けた。



ルークたちが遠ざかってもアッシュはまだ混乱していた。
今まで憎んできたレプリカ。
先程のレプリカはタルタロスやカイツールで会った、ただの世間知らずで無知で傲慢な公爵子息とは違った。



(あいつは返すと言った・・・。俺はあいつのせいで名前も親も居場所も奪われたんじゃなかったのか・・・??
それに、あのてのひら。どこかで・・・・・・)



頭の中に靄がかかったように何か憮然としない。
眉間に皺を寄せ思考の波に浸るように目を閉じた。






その日、俺はフォミクリー装置に繋がれてレプリカ情報を抜き取られた。
あまりの激痛に意識を失い、再び目を覚ましたとき自分と同じ顔が目の前に居て驚いたのを覚えている。
どこか申し訳なさそうな佇まいで、自分を心配そうに見つめる翡翠の瞳。
握られたてのひらから流れてくる温かさに心が安らいだ。
仕草だってあの傲慢なレプリカとは全然似ていないのに。
でも、解ってしまった。
自分を見ていたのは確かにあのレプリカだったと。

産まれたばかりのレプリカは赤ん坊のようだとヴァンから聞いていたが、自分のレプリカは違っていた。
レプリカ情報を抜き取られた影響かその後何日か高熱を出し続けた俺に大丈夫かとしきりに聞いてきた。
大丈夫じゃないと答えると、途端に悲しそうな表情になった。
「ごめんなさい、ルーク。わたしはこれからあなたの居場所を奪ってしまうけれど、ちゃんと・・・ちゃんと返すから・・・。だから、その時までわたしは・・・」
最後の方は意識が朦朧としてうまく聞き取れなかった。
そのまま意識が混濁して再び目を覚ますとそこにはもうレプリカの姿はなかった。

一人きりになった部屋は何故か狭く感じて、孤独感に押しつぶされ。
ヴァンはしきりにレプリカが俺の名前と居場所を奪ったのだと。
憎むべきはあのレプリカなのだと囁き続けた。





息苦しさに目を開けた。
何時の間にか眠っていたようだった。
7年前の夢を見た。
レプリカを作られた時の出来事だった。

どうして今まで忘れていたのだろうか。
けれど、

(あぁ、そうだったのか・・・)

唐突に理解した。
ヴァンが自分に対して行ってきたことは、ヴァンの都合のいいように縛り付ける為の洗脳だったのだと。




そういえば何故かは分からないけれどヴァンが様子を見に来た時だけレプリカは赤ん坊のように振舞っていた。
その理由を聞いたような気もするが、とにかく今はレプリカに接触しなければ。


自分の知らないところで何かが起ころうとしている―――