不變


死が近いことを人は思い知ることがある
その時に自分が何を望むのか----…
レムの塔で瘴気を中和したこの身体は音素乖離を起こして消えかかっていて
身体すら残さず消えてしまうのに、この想いを伝えて良いのかまだ迷っている自分がいる



蒼い月が辺りを静かに照らしている。
旅を続けている途中の数少ない逢瀬の時刻。
時折吹く風が彼の朱色の髪を攫っていく。
「レプリカ・・・」
何時から其処にいたのか、自分と同じ顔の男が背後から声を掛ける。
「アッシュ」
レプリカと呼ばれた少年はそう言い柔らかい笑みを作った。
ルーク。アッシュから造られたレプリカ。
今彼と対峙しているのは、被験者のアッシュその人である。
「何を見ていた」
「ん・・・月が綺麗だなぁって思って見てた・・・」
「月か・・・。」
「!?」
急に腕をつかまれ引き寄せられる。
「月じゃなくて俺を、俺だけを見ろ」
耳元で囁かれ、さらには襟元から手が侵入してくる。
「だめ・・・だ。皆が・・・」
「誰も来ねぇよ」
「でも・・・っ」
それでも何か言いたげなルークの唇をアッシュのそれが塞ぐ。
 ---溺れてしまえばいい--- 
そうは思うけれど、その思いとは裏腹に腕はアッシュの背に回される事はなく、自分の服をきつく握り締めていた。
月が二人を照らしている。
深い口付けに膝から力が抜けていくのをルークは感じていた。


「……っ!」
ルークは声にならない悲鳴を上げながら躰を震わせる。
きつく瞳を閉じ押し寄せる快感を堪えながらも、指の動きに従って徐々に背中が仰け反っていく。
アッシュは引き締まった双丘を撫で上げると、その割れ目から秘められた奥へと指を一本、二本とゆっくり差し入れた。
ピクリとルークの身体が強張る。痛みの為か眉間に皺を寄せ耐えるかのようにアッシュの背中に回されていた指先が爪を立てる。
けれど何度も抱いた身体だ。痛みはすぐに快感に変わっていった。。
「……あ……んんっ…」
同時にルークの下半身に力が入る。爪先がピクッと震え、より受入れ易いよう脚が広がり、無意識のうちに腰が揺れる。
アッシュは強請るように押し付けられた熱い昂ぶりを感じながらも、ルークの熱い内部を焦らすように弄っていた。
「……あぁ…っ…」
湧き上がる悦楽に耐えるかのように反らされた白い喉元が眼に焼きつく。アッシュは噛み付くような口づけを落として、色鮮やかな痕跡をルークの白い肌に残していく。
まるでこの躰は己の所有物だと言わんばかりの情念の痕は、刻印のように刻まれた。
「…アッ…シュッ」
一度燃え上がってしまった情欲を治める術は、ルークにはもうない。
けれどアッシュは然したる動きも見せず弄り続けるだけで、その行為に焦れたルークは、彼の分身を掴み扱き上げるとそのまま己の体内に収めようとした。
けれどまだ堅さの足りないそれは思うようにならず、逆に焦燥感を募らせる結果となってしまった。
熱く火照った躰はアッシュを求めて止まない。しかし当のアッシュは判っているのに動こうとしない。
ルークは苛々としながら躰をずらすと、自分を貫くはずの楔にそっと唇を寄せた。
おずおずと先端を舌先で突っつくと先走りの雫が溢れてくる。
思い切ってそれを全て舐め取りながら深く口中に収め吸い上げると、すぐに一回り大きくなった。それから舌を絡め扱き上げると、徐々に堅さを増してくるのが感じられた。
自分の脚の間で上下するルークの姿をアッシュは楽しげに眺めている。
「……うっ…くッ……」
「…るー…・・く…ッ……」
恋人を呼ぶ声に官能が混じる。ルークのもたらす快感は、すでに彼の思考を停止させていたのだ。アッシュはルークの貌を上げさせると、抱き込むようにして上下の位置を入れ替え、有無を言わさず逞しくなった楔でルークを貫いた。
「……あ…っっ!」
圧倒的な存在感で、アッシュがルークの中を満たしていく。
挿れたと同時に締め付ける内壁が、熱い欲望を伝えてくる。アッシュは一呼吸置いて内部の熱さを十分に感じた後、ゆっくりと動き始めた。
「…ぁ…っ……もっ…とッ…」
快楽の極みを知る躰は、その要求も貪欲だ。ぎりぎりまで引かれる喪失感と、最奥まで満たされる充足感の繰り返しにルークは翻弄される。激しく打ち付けられる腰の動きと、繋がっている部分から漏れる生々しい音が、より官能を煽る結果となっていた。
アッシュにしても挿れた楔を逃さぬようしっとりと絡みつく襞に、痺れるほどの快感を覚える。
アッシュが拓いたルークの躰は、今や最高の快楽を与えてくれるのだ。
そして甘い吐息が啜り泣くような喘ぎに変わる頃になると、ルークは絶頂を迎える。
「…も…うっ……」
「…愛している…」
一段と強い締め付けと同時にルークは達した。なんと表現してよいのかわからぬほど、艶かしい貌を見せながらアッシュの腕の中で果てる。アッシュはその貌を見た後、ルークの中へ欲望を迸らせた。
「…愛している…ルーク…」
耳元で囁かれる優しい声にルークの唇が何かを言おうとした。
瞳を開ければそこには優しく微笑むアッシュの顔があった。
今ならまだ伝えられる。
全てを忘れて抱きあう時、そこには愛し合う二人しか存在しない。
今なら言えるかもしれない。彼の望む言葉を。
「……」
「……」
無言で見つめるアッシュはまるでその言葉を待っているかのようだった。
ルークは口を開きかけた。
しかし、開きかけた唇は閉じられその言葉を紡ぐことはなかった。





ヴァンを倒した後一人エルドランドに残りローレライを解放する。
布陣に守られるように地殻へと降りていくルークの頭上からアッシュの物言わぬ身体が落ちてくる。
アッシュの身体を受け止めてルークは思う。
彼にとって邪魔な自分という存在を消し去りたかった。
これで全て返せる。
もう、自分が彼の居場所を奪うことは無い。
愛していたからこそ彼の全てを奪ってしまった自分自身が許せなかった。
だから自分の全てを捧げられたと思う。
彼は悲しんでくれるだろうか?
ふとそんな疑問が浮かぶが考えることも億劫になって
ルークはゆっくりと瞼を閉じた。






深都夜さまへ。
切なくしたかったんですがまだまだ修行不足で申し訳ないです…